目次
クリニックで現金以外が求められるようになった理由
近年、医療機関においてキャッシュレス決済の導入が進んでいます。この背景には、患者さんの利便性向上だけでなく、新型コロナウイルス感染症をきっかけとした院内感染リスク低減の需要の高まりがあります。
また、会計時の混雑解消も大きな理由の1つです。とくに患者数の多いクリニックにとっては、現金管理業務の負担軽減により、スタッフのリソースを別業務に充てられるようになります。
加えて、患者さんのニーズも変化しています。クレジットカードをはじめ、近年ではQRコード決済が普及しており、医療機関に対応を求める声も聞かれるようになりました。
このような社会変化に対応し患者満足度を高める施策の1つとして、キャッシュレス決済が注目されるようになってきています。
キャッシュレス決済の普及状況
経済産業省の発表によると、2024年のキャッシュレス決済比率は42.8%に達しており、2010年以降右肩上がりの傾向です(下図)。

出典:経済産業省「2024年のキャッシュレス決済比率を算出しました」(https://www.meti.go.jp/press/2024/03/20250331005/20250331005.html)
また、政府目標として、将来的にはキャッシュレス決済比率80%を目指すとされており、今後さらに広がると予想されます。
決済方法別にみた2024年時点の普及状況は、以下のとおりです。
- クレジットカード:82.9%
- デビットカード:3.1%
- QRコード決済:9.6%
- 電子マネー:4.4%
一方、医療機関におけるキャッシュレス決済の導入状況は、2024年の厚生労働省発表資料によると以下の状況です。
- クレジットカード(デビットカード含む):62.6%
- QRコード決済:5.7%
- 電子マネー:7.8%
医療機関の導入は社会全体の数値よりも少ない状況ながら、都市部を中心に今後普及していくと予想されます。
出典:厚生労働省「医療機関における外国人患者の受入に係る実態調査結果報告書令和6年3月」
クリニックがキャッシュレス決済を導入して得られるメリット
キャッシュレス決済の導入により得られるメリットは複数あります。患者満足度の向上だけでなく、クリニック運営の効率化にも直結します。具体的な内容をみていきましょう。
院内感染の予防につながる
現金のやり取りは、手から手へと細菌やウイルスが移るリスクがあります。とくに、インフルエンザをはじめとする季節性疾患が流行する時期は、現金の受け渡しが感染経路になる可能性が高まるのは既知の事実でしょう。
深堀りすると、キャッシュレス決済を導入することでお金の直接的な受け渡しがなくなり、接触機会を低減できます。また、患者さん自身が端末を操作するセルフ方式も増えており、スタッフとの接触をさらに減らすことも可能です。
感染リスクの低減は、患者さんとスタッフ双方に安心感をもたらし、クリニックの信頼性向上にも貢献する施策といえます。
スタッフの負担が軽減できる
キャッシュレス決済は、ヒューマンエラーを減らしスタッフの業務効率を向上させます。たとえば、現金決済では計算ミスやお釣りの渡し忘れなど、ヒューマンエラーがどうしても発生しがちです。また、レジ締めや現金管理、銀行への入金作業などの業務も意外と工数がとられます。
そこで、キャッシュレス決済を導入すれば、これらの業務が削減もしくは不要です。効率化できた時間を患者さん対応や診療補助など、より価値の高い業務に割り当てることでクリニック全体のサービス品質が向上する好循環を生み出すでしょう。
会計システムと連携しヒューマンエラーが低減できる例として、以下のシステムが挙げられます。特徴から導入の流れまでを紹介しているため、イメージの具体化にお役立てください。
システム説明ページはこちら:モバイル型スマート決済端末 PayCas Mobile
キャッシュレス決済サービスの選び方
医療機関向けキャッシュレス決済サービスは「決済特化型」と「サポート付帯型」があり、規模や目的に合ったものを選択するとよいでしょう。具体的な違いについては、以下の一覧表をご参照ください。
比較項目 | 決済特化型 | サポート付帯型 |
---|---|---|
主な機能 | 決済機能のみ | 決済機能+予約・受付・会計・患者情報管理など |
向いているクリニック | シンプルなシステムから始めたい |
・ 院内の医療DXを推進させたい ・ スタッフのリソースを別業務に移行させたい |
それぞれの特徴について、以下より解説します。
決済特化型
決済特化型は機能がシンプルなため、スタッフの教育も最小限で済み、導入から運用開始までの期間も短いのが特徴です。普段の買い物で目にする機会も多く、まずは現金以外の支払方法を提供できるようにしたいと考えている場合の選択肢になるでしょう。
とくに、スタッフ数が少ない個人クリニックや初めてキャッシュレス決済を導入する場合に適しています。
サポート付帯型
サポート付帯型は機能が豊富で、受付業務をはじめクリニック全体のDX化を進める足掛かりになります。決済機能に加えて診療予約や受付機能、患者情報管理などの多機能が一体化しているため、さまざまな業務をまとめてデジタル化できます。
電子カルテシステムや医事コンピューターとも連携できるシステムを選べば、入力業務の手間をより削減可能です。
導入を検討する場合、まずは自院の業務に関する運用手順を洗い出し、キャッシュレス決済導入でどのような変化があるのかのシミュレーションが重要です。その際、関係スタッフを交えながら話を進めることで、スムーズな導入・運用ができるでしょう。
キャッシュレス決済導入の4ステップ
実際にキャッシュレス決済を導入する場合、大きく分けて4つのステップで話が進んでいきます。事前準備の一環として1つずつみていきましょう。
ステップ1.導入方法を決める
キャッシュレス決済をどのように導入するか、基本事項を決めるステップです。導入方法によってスケジュールが異なるため、余裕をもって計画を立てるとよいでしょう。とくに、既存の院内システムと連携したい場合は、単に導入するよりも丁寧に進めると後悔のない選択ができます。
導入範囲によるスケジュールの違いは、以下のとおりです。
- キャッシュレス決済端末のみ導入:2~3か月程度
- POSレジシステム*含めて一体的に導入:3~4か月程度
*POSレジシステムとは、自動つり銭機能やバーコード読み取りによる売上データの自動化など、従来のレジスターよりも業務負担が軽減できるシステムのことです。
現在の会計フローのなかにキャッシュレス決済をどう組み込むかも含めて、クリニックの規模や患者さんの動線に合わせた方針を決定しましょう。
ステップ2.補助金の申請を進める
キャッシュレス決済導入にはさまざまな補助金制度が活用できるため、積極的に申請を検討すべきです。補助金を活用することで、初期費用の負担を大幅に軽減できます。ただし、申請から採択まで時間がかかるため、早めの準備が功を奏します。
主な補助金は以下のとおりです。
- IT導入補助金
- ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金
- 業務改善助成金
- インバウンド安全・安心対策推進事業
※2025年5月時点の情報
補助金の申請時期や要件は変更される可能性があるため、最新情報を確認するとともに、不安な場合はサポートを受けることをおすすめします。
なお、以下のページで補助金に関する情報をまとめています。優遇内容や公募日程が把握できるため、ご活用ください。
補助金制度説明ページはこちら:補助金・税制のご紹介(電子カルテ・レセコン・電子薬歴の導入の方へ)
ステップ3.キャッシュレス決済の種類を選択する
どの決済方法を導入するかを、患者層や診療内容に合わせて決定するステップです。すべての決済方法を一度に導入する必要はなく、患者さんのニーズが高い方法から進めるとよいでしょう。
あらためて、決済方法の普及状況は以下のとおりです。ニーズの参考になさってください。
- クレジットカード:82.9%
- デビットカード:3.1%
- QRコード決済:9.6%
- 電子マネー:4.4%
ステップ4.決済会社を選定する
決済会社を選ぶ際は、患者さんが利用する可能性が高い決済方法の手数料率を重視すると候補が絞れます。
手数料率の目安は以下のとおりです。
- クレジットカード:1.5~3.0%前後
- 交通系ICカード:1.9~3.0%前後
- QRコード決済:2.5~3.5%前後
合わせて、入金サイクルも決済会社によって異なるため、自院の運営に適しているかどうかも確認しましょう。
決済会社は後で変更しようとすると、カードブランドや決済手段が変わってしまい患者さんに手間をかける恐れがあります。複数社をピックアップし、比較検討して決定する手順を推奨します。
クリニック導入前に確認しておきたいデメリット
キャッシュレス決済導入には、主に3つのデメリットがあります。各デメリットを事前に理解し対策を講じることで、導入後のトラブルを未然に防げます。
デメリットの内容と詳細、考えられる対策を下表にまとめました。参考になさってください。
デメリット | 詳細・対策 |
---|---|
手数料がかかる |
・ 患者さんの自己負担分に対してのみ発生する ・ 年間売上高が上がるほど手数料率は下がる |
端末費用(購入・維持)がかかる | 購入費用は無料の場合もある |
現金よりも入金タイミングが遅れる | 自院のキャッシュフローに近い決済会社を選定する |
まとめ
クリニックへのキャッシュレス決済導入は、院内感染の予防やスタッフの業務負担軽減などのメリットがあります。日本全体のキャッシュレス比率が42.8%まで上昇し、医療機関でも着実に普及が進んでいます。
導入にあたっては、クレジットカードやQRコード決済など方法の選択、決済特化型かサポート付帯型かの検討、そして4つの導入ステップを踏むことが重要です。
手数料や入金タイミングなどのデメリットはありますが、補助金活用で負担を軽減できます。患者さんのニーズが高まる現在、まずはクレジットカードなど1つの決済方法から始めてみてはいかがでしょうか。
キャッシュレス決済導入をはじめ、院内の医療DXについてお悩みの際は、以下問い合わせフォームまでご相談ください。
問い合わせフォームはこちら:お問い合わせ
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