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クリニック開業 医師 事務長 2025.06.11 公開

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モンスターペイシェントとは?実態と対処法を解説

モンスターペイシェントとは、医師や看護師など医療スタッフに対して理不尽なクレーム等、難癖を繰り返す患者さんやその家族を指します。著しくモラルの欠けた振る舞いは、スタッフだけでなくほかの患者さんにも深刻なダメージを与えかねません。本記事では、モンスターペイシェントへの対処法について、事例を交えながら解説します。

※本内容は公開日時点の情報です

#開業直後の悩み

目次

モンスターペイシェントの実態と医療現場への影響

モンスターペイシェントの実態と医療現場への影響

ここでは、モンスターペイシェントの概要となる部分について、3つに分けて解説します。

定義と「ペイシェントハラスメント」との関係

あらためてモンスターペイシェントとは、医師や看護師など医療スタッフに対して理不尽なクレーム等、難癖を繰り返す患者さんやその家族を指します。似た言葉に「ペイシェントハラスメント」があります。それぞれの違いは、以下の表のとおりです。

言葉 定義 焦点
モンスターペイシェント 常習的・執着的に問題行動を起こす「特定の患者」を指す 「人物(患者)」に焦点
ペイシェントハラスメント 患者から医療者への「ハラスメント行為全般」を指す広い概念 「行為」に焦点

意味合いとして類似していますが、どちらも患者さんに影響を及ぼす言葉です。容易に使ってしまうと不安や不信感につながる可能性があるため、窓口や診察室等ではむやみに口外しないよう周知しましょう。

医療現場での実態と深刻な影響

厚生労働科学研究成果データベースの文献「看護職等が受ける暴力・ハラスメントに対する実態調査と対応策検討に向けた研究」によると、看護職等に対する暴力等の報告件数は以下と報告されています。

  • 患者によるもの:平均5.6±18.8件(中央値2.0)
  • 家族、親族、患者関係者によるもの:平均0.2±0.7件(中央値0.0)

スタッフだけでなく、モンスターペイシェントによる診療の中断や遅延は、他の患者さんにも影響を及ぼしているのが実態です。

出典:「看護師職等が受ける暴力・ハラスメントに対する実態調査と対応策検討に向けた研究」(厚生労働科学研究成果データベース)

クリニック経営・スタッフのメンタルへの影響

モンスターペイシェントの振る舞いは、職種を問わずメンタルヘルスへの影響が懸念されます。とくに、直接対応したスタッフへのダメージは深く残る場合もあり、離職につながる可能性は否定できません。

厚生労働省が2020年に公開した「看護師職等が受ける暴力・ハラスメントに対する実態調査と対応策検討に向けた研究」によると、看護職等に対する暴力等の影響として以下が報告されています。

  • 労災適用:平均0.6±1.9件(中央値0.0)
  • 身体的受傷件数:平均1.4±4.1件(中央値0.0)
  • 精神的不調:平均0.2±0.7件(中央値0.0)
出典:「看護師職等が受ける暴力・ハラスメントに対する実態調査と対応策検討に向けた研究」(厚生労働科学研究成果データベース)

こんな患者さんにお困りではありませんか?特徴と事例

ここからは、モンスターペイシェントに見られる特徴や例、通常とのクレームとの線引きについて解説します。

よくある行動パターンとタイプ分類

モンスターペイシェントは主に4つに分類できます。なお、行動自体はペイシェントハラスメントですが、頻繁に繰り返す人物がモンスターペイシェントに該当します。タイプごとに見られる行動パターンは以下のとおりです。

行動パターン 事例
過剰要求・クレーム型 診療時間外の対応要求や本人に必要のない治療を強く求め、断ると執拗に抗議してくるパターン
暴言・威圧型 声を荒げて医療者を罵倒したり「訴えるぞ」と脅したりして自分の要求を通そうとするパターン
SNS・口コミ拡散型 不満を感じるとすぐにSNSや口コミサイトに誇張した否定的評価を投稿し、風評被害をもたらすパターン
ドクターショッピング型 不満を持つと次々と医療機関を変え、以前受診した医療機関の批判を繰り返しながら、自分の望む処方や対応を強く求めるパターン

【事例集】現場で実際にあった困った患者さんの例

ここからは、4つの行動パターンごとに現場で起きた事例を紹介します。モンスターペイシェントへの対策を検討する材料の一助になれば幸いです。

行動パターン 具体例
過剰要求・クレーム型
  • 医師が丁寧に説明したにも関わらず、さらに詳しい説明を求めて診察室にとどまる
  • コロナ禍で救急車が呼べないから医師とすぐに電話で話がしたいと何度も電話をかけて電話回線を塞ぐ
  • コロナ禍で電話診察後の処方箋が届かず「薬がなければ体がどうなってしまうか、あなたにわかるのか」との主張を約2時間にわたり訴え続ける
暴言・威圧型
  • 会計を待てずに受付の前に居座る
  • 診察の内容や診断に不満があり、「こんな医者は初めてだ!」と大声を上げて診察室のドアを勢いよく閉める
  • 救急外来で「子どもがケガをしたから早く診ろ」と恫喝し、説明に納得せず救急車を呼び他院を受診する
SNS・口コミ拡散型
  • 受診時には何もなく終わるが、その後口コミで「あの人は本当に〇〇科の医師でしょうか。」などの批判を書き込む
  • 予約時間を守らずに来院したにも関わらず、「診察時間が短い。受付の態度も高圧的」など主観的な不満を書き込む
ドクターショッピング型
  • 短期間に複数件クリニックを受診してその診断の違いを口コミに書き込む
  • 「検査は時間がかかる」「金銭的負担がかかる」などを理由に必要な検査は断り、処方薬だけ求めて複数件のクリニックを受診する

通常のクレームとモンスターペイシェントの境界線

クリニックとして適切な対応を取るためには、通常のクレームとモンスターペイシェントの境界線を判別しておく必要があります。

目安を以下の表に整理したため、院内対策の参考になさってください。

判断基準 通常のクレーム モンスターペイシェント
1. 要求の合理性 医療ミスや説明不足など、合理的な理由に基づく 理不尽または過剰な要求を迫る
2. 言動の節度 冷静な言葉や態度で伝えられる 怒鳴る・暴言・脅迫など攻撃的な言動を伴う
3. 要求の執拗さ 一度申し出て、説明や謝罪で納得する場合が多い
  • 同じ内容を執拗に繰り返し要求する
  • 長時間拘束する
4. 周囲への影響 個別対応で解決できるため、影響は最小限
  • 診療妨害により、他の患者さんの診察進行に支障
  • スタッフの精神的負担や業務効率の低下
5. 要求の範囲 医療内容や接遇など現実的な範囲に収まる 無関係な要求や私的な便宜まで求める場合がある
6. 支払いへの対応 支払い拒否の可能性は高くない 支払い拒否の可能性が高く、さらに値引きなどの金銭的要求をする場合もある
7. 暴力・セクハラ行為の有無 身体的接触や不適切な行為はない 身体的暴力やセクハラ行為のほか、器物破損などの危険行為に及ぶ場合もある
8. 解決への姿勢 説明と謝罪、改善策の提示で納得してもらえる
  • 解決よりも自己主張や攻撃が主目的になっている
  • 問題解決には非協力的な傾向がみられる

モンスターペイシェント化の背景を理解する

ここからは、患者さんがモンスターペイシェント化してしまう要因を3つに分けて解説します。

1.患者側の心理的不安、期待とのギャップなど

健康に関する不安は、無意識的にも増大し過剰反応につながる場合があります。インターネットによる情報収集が一般化した結果、インターネットから得た情報と医学的な見解 とのギャップが生じると「正しい治療をしてもらえていない」という不満につながるケースは少なくありません。

生じたギャップを埋めるためには略語や専門用語を使わず、患者さんに理解してもらいやすい言葉で説明する必要があります。

2.医療提供側の無意識の要因

医療者側の対応や態度も、患者さんのモンスターペイシェント化を引き起こす要因となりえます。医療者の忙しさや無意識の態度が患者さんの不満や怒りを増幅させ、問題行動を誘発させてしまう可能性があります。

忙しさからくる対応の問題は深刻です。時間に追われることで生まれる機械的な応対や診療時間の制約による説明不足、効率を重視するあまり患者さんの声を軽視してしまう姿勢などが、不満の原因となります。

医療者自身が自らの対応を振り返り、患者さんの立場に立ったコミュニケーションを心がけることで問題行動の未然防止が可能です。医療に関する専門家としての知識や技術だけでなく、人としての温かさや共感を示す姿勢が重要です。

3.社会環境の変化とその影響

現代社会の変化が、モンスターペイシェントの増加に大きな影響を与えています。医療のサービス化により「お金を払っているのだから満足できるのは当然」という顧客意識が高まりました。医療機関によっては「様」を付けて呼び出すこともあり、無意識的に患者さんの期待値を不必要に高めることになっています。

また、SNSと情報拡散の影響も見過ごせません。「要求が通らなければSNSで拡散する」という圧力や、ネガティブな口コミによる風評被害への恐怖、ネット上での匿名性が助長する攻撃的言動などが、医療現場に新たな緊張をもたらしています。

社会環境の変化を把握し、新しい時代に適応した関係構築が求められています。単に従来の関係性に戻そうとするのではなく、お互いに尊重しあえる関係性の模索が重要です。

【実践編】トラブル発生時の即時対応法

実際にモンスターペイシェントによるトラブルが発生した場合、初動対応が極めて重要です。適切な対応により事態の悪化を防ぎ、場合によっては関係改善につながる可能性があります。ここでは、現場で実践できる具体的な対応法を紹介します。

初動対応の鉄則:冷静な対処と記録

トラブル発生時の初動対応においてもっとも重要なのは、冷静さを保つことと客観的な記録を取ることです。

冷静や対処の基本として、まず深呼吸して自分の感情を落ち着かせることから始めます。患者さんが立っている場合は座ってもらい、同じ目線で対話することで威圧感を軽減できます。声のトーンは低く穏やかに保ち、腕組みや後ずさりなど拒絶を示すような身体言語を避けることが重要です。

また、傾聴の姿勢を保つことも不可欠です。途中で遮らず患者さんの話を最後まで聞き、「はい」「そうですね」など話を聞いていることを示す相槌を打ちます。>

「つまり、~ということでよろしいですか?」と要約して確認し、「それはお困りでしたね」など感情を受け止める言葉をかけることで、患者さんの心理的な緊張を和らげられます。

記録については以下の内容を漏らさないようにしましょう。

  • 正確な発生日時
  • 場所
  • 患者氏名
  • 対応者氏名
  • 同席者氏名

患者さんの発言内容は可能な限り正確に記録し、感情的な状態や身体的な様子、どのような対応をしたかも詳細に記録します。

冷静な対処と正確な記録は、トラブル解決の基盤です。対応を徹底することで感情論ではなく、事実に基づいた建設的な解決が可能になります。

役割分担と対応レベルの判断基準

明確な役割分担と対応レベルの判断基準を設けておくと、問題の拡大を防ぎ効果的な解決が期待できます。

具体例として、国立大学付属病院医療安全管理協議会が公表した「苦情対応ハンドブック第3版」記載の対応内容が挙げられます。

各部署における対応方法

出典:国立大学付属病院医療安全管理協議会「苦情対応ハンドブック第3版」

避けるべき対応と言動

トラブル対応時には、状況を悪化させるような対応や言動を避けることが極めて重要です。不適切な対応により患者さんの怒りがさらに増大し、解決可能だった問題が深刻化したり、法的トラブルに発展したりする可能性があります。

避けるべき対応パターンとして「それはルールなので」「そんなはずはない」「医師の判断です」など、一方的な意見の押し付けが挙げられます。また、患者さんの感情に同調して感情的になったり、その場しのぎでの約束をしたりするのも、後々のトラブルのトリガーポイントです。

対策として、以下のような言い換え表現を用いるのが有効です。

  • できません→~であれば対応可能です
  • そんなルールはない→院内規定では~となっています

適切な言葉遣いと姿勢を心がけることで、患者さんの感情を落ち着かせ、建設的な対話の可能性を高められます。技術として身に付けられるため、定期的な研修が推奨されます。

【予防策】明日から始められるトラブル防止対策

ここからは、明日からでも始められる具体的なトラブル防止策を紹介します。

院内ルールの明確化と患者さんへの伝え方

事前に院内ルールを明確にしておくことで、患者さんの期待値を適切にコントロールし、不合理な要求や誤解による問題の未然防止が可能です。

明文化すべき基本ルールの例は以下のとおりです。

  • 診療時間:受付時間、診療終了時間、昼休み時間
  • 予約制度:予約取得方法、変更・キャンセルルール、遅刻時の対応
  • 緊急対応:夜間・休日診療の有無、連絡方法

基本ルールを定めた後は、患者さんをはじめ外部に対して発信することで抑制効果が期待できます。具体的な方法例は以下です。

  • 院内掲示
  • 初診時の説明
  • ホームページへの掲示

なお、ルールを伝える際は権威的にならず、患者さんの立場に立った説明を心がけることで理解と協力を得やすくなります。

スタッフへの教育とシミュレーション

モンスターペイシェントに対するスタッフ教育として定期的な研修を設けられると、現場でのトラブル発生時に適切な対応がとれます。

具体的には、ロールプレイを活用したシミュレーションが有効です。たとえば、実例をもとにしたケーススタディやグループディスカッションなどができると、一人ひとりが自分事化できます。

研修を通じて得られた知見はマニュアル化することで、新人スタッフへの教育にも使えるようになり、体制が整います。

患者とのコミュニケーション改善策

内部での対応とあわせて、患者さんとのコミュニケーション改善策も検討しましょう。たとえば、待ち時間の現状を掲示したり投書箱を設置して意見を拾い上げたりする方法が挙げられます。

そのほか、医療情報の伝え方が専門的になりすぎていないかも、コミュニケーションを円滑にするうえではチェックしたい点です。患者さん自身が自分の症状を正しく把握できるよう、略語などを使わない説明資料を用意できると、良好な関係性構築に役立ちます。

クレーム対応の一元化と情報共有

クレーム対応は窓口と担当者を明確にしておくと、院内の情報共有が容易になりその後の対応がスムーズです。

発生当時は小さいトラブルだとしても、後から大きな問題に発展する可能性はゼロではありません。定期的に振り返りと改善策を講じるミーティングの機会を設ければ、組織的な対応が可能です。

また、電子カルテのメモ機能を使い配慮すべき点を共有しておくと、特定の個人に依存しない体制作りにもつながるため、安全管理が強化できます。

現在進行形のトラブル解決ステップ

すでに関係性が悪化している患者さんとの関係修復は、以下のようなアプローチが考えられます。

アプローチ方法 取るべき対応
1. 関係性をリセットする機会を設ける 担当者の変更や院長先生(責任者)を交えた面談の場を設定する
2. 不満の根本原因を特定する クレームの背後にある懸念点を引き出す
3. わかりやすい改善策を提案する 今後の対応方法を患者さんと合意のうえで文書化する

院内だけで解決が難しい場合は、第三者の介入を検討すべきです。また、状況に応じて診療を中止する判断軸も持っておくと、対応が強固なものにできます。具体例は以下のとおりです。

アプローチ方法 取るべき対応
第三者の介入を依頼する ・複数回の対話でも解決しない
・相手方から法的な主張が出た場合
診療を中止する ・適切な医療提供が困難な状況
・他の患者さんやスタッフへの影響が大きい場合

診療を中止することに対して、応召義務が気になるかもしれません。次のセクションで解説します。

法的知識でクリニックを守る

院内の改善だけではどうにもならない場合、法的な対応に委ねるべきです。ここでは、その理由と手続きや注意点について解説します。

応召義務の範囲と診療拒否の正当な理由

医師法第19条において、「診療に従事する医師は、診察治療の求めがあった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」とあり、診療の中止は難しいと思われている先生も多いかもしれません。

出典:厚生労働省「医師法第19条」

実際には、モンスターペイシェントのような診療継続に大きく影響する事案については、診療を拒否する「正当な事由」に該当する可能性が高いと考えられます。

応召義務における「正当な事由」が認められたケースは以下の記事で紹介しています。自院での対応の参考として、ぜひご覧ください。

参考記事:医師法19条「応召義務」とは?応召義務を負わない「正当な理由」を解説

実際の診療拒否手続きと注意点

実際に診療拒否の手続きを踏む際には、緊急対応の必要性と診療拒否の妥当性に鑑みて判断する必要があります。また、証拠として提示できるだけの記録を残していることも重要です。

記録はカルテ記載をはじめ、防犯カメラや音声も該当します。後でトラブルに発展した際の証拠になるため、日常的に運用できる体制を構築しておきましょう。

警察・弁護士の活用タイミングと方法

外部への協力依頼先として警察と弁護士が挙げられますが、身体的な接触の有無で選択肢が変わります。暴力などの身体的な接触が絡む案件は、すぐに警察へ相談しましょう。

一方、身体的な接触はないが、執拗に一方的な要求をぶつけてくる場合は、弁護士への相談が有効です。

顧問弁護士と契約を締結している場合は、契約内容に基づいて速やかに一報します。顧問契約未締結の場合は、医療機関への支援実績が豊富で、相談しやすい弁護士を探しましょう。探し方の一例として、日本弁護士連合会のホームページで日本全国の弁護士を検索できます。

参考:日本弁護士連合会「弁護士検索」

まとめ:モンスターペイシェント対策は組織的取り組みで

モンスターペイシェントは、一般的なクレームとは異なる対応が必要です。適切な対応が他の患者さんやスタッフを守ることにつながります。対応すべきポイントは多岐にわたるため、1つずつ整えていきましょう。

メディコムパークでは、セミナーやお役立ち資料、コラムなどで患者トラブルへの対処法に関する情報を提供しています。以下よりアクセスできるため、ご活用ください。

セミナーはこちらから:最近の患者トラブルで身に付けておくべきポイントは何か?「非対面世界」にシフトした患者トラブルへの対処法を中心にして

コラムはこちらから:病院やクリニックのクレーム対応のポイントとは?良い事例・悪い事例を解説

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