開業医は儲からないって本当?開業医の年収構造とデータで見る現実
「開業医になっても儲からない」「年収は激減する」「やめておいたほうがいい」―― 医師として独立開業するべきか、勤務医として安定したキャリアを歩むべきか。多くの医師がこの選択に悩むとき、しばしば耳にする言葉です。実際に廃業する医院もあることから、将来に不安を感じる医師も少なくありません。しかし、一方で高収入を実現している開業医もたしかに存在します。この記事では、開業医の収入に関する誤解と事実、平均年収のデータ、そして成功する医師と失敗する医師の違いをご紹介します。あなたは開業するべきなのか否か、決断の一助となれば幸いです。
※本内容は公開日時点の情報です
目次
【真相】開業医は本当に儲からないのか?
本当のところ開業医は儲かるのでしょうか、それとも儲からないのでしょうか。実態と事実に基づいて整理し、お伝えします。
「開業医は儲からない」というイメージの真相
「開業医は儲からない」という認識が広まった背景には、複数の要因があります。まず、医療機関の経営難や廃業のニュースなど、ネガティブな情報が頭に残りやすい点が挙げられます。
全国保険医団体連合会は、25%の医科診療所(法人)が赤字経営の状況と公表し、昨今の物価高により、経営への向かい風がこれまで以上に強くなっているのも事実です。違う見方とすると、75%は黒字経営を維持しています。
また、ワークライフバランスの観点では、東京保険医協会の調査によると、開業医の2割弱が1日11時間以上働いている実態が明らかになりました。一方で「5~7時間未満」が約1割、「7~9時間未満」も4割弱いることもわかりました。
しかし、SNSや医師のコミュニティ、業界に関するニュースでは、失敗事例や悪化した状況が拡散される傾向にあり「開業は危険」というイメージが先行しやすいといえるでしょう。
大切にしたいのは「儲かる/儲からない」という二元論ではなく、各医師が置かれている状況要因によって異なると認識することです。インパクトの強さに左右されず、一歩踏み込んだ中身に注目する意識を持つと、入ってくる情報の質が変化します。
収入に関する誤解と事実
開業医の収入に関する最大の誤解は「すべての開業医が高収入である」というものです。厚生労働省の令和5年医療経済実態調査によれば、個人診療所の年間医業収益は平均9,698万円、医療法人診療所の年間医業収益は1億8,751万円です。
しかし、医業収入がそのまま手取りになるわけではなく、収入から人件費や家賃、設備投資などの経費を差し引いた金額が実際の手取りとなります。
儲かる状態の定義は千差万別です。開業医=儲かると広く捉えるのではなく、診療科や立地、経営形態など細かく切り分けてみていく必要があるでしょう。
廃業率から見る開業医の実態と将来性
帝国データバンクの調査によれば、2024年の医療機関(病院、診療所、歯科医院)の倒産は64件、休廃業・解散は722件と、いずれも過去最多を更新しました。とくに「診療所」と「歯科医院」の増加が顕著で、全体の数字を押し上げています。
診療所の休廃業・解散の増加には、経営者である医師の高齢化が大きく影響しています。診療所経営者の5割以上が70歳以上でありながら、後継者不在のまま引退時期を迎えるケースが増えている状況です。
こうした状況は厳しいものの、新たな機会も生まれています。地域によっては医師不足が深刻化しており、適切な立地と診療科目の選定、そして効率的な経営を行うことで、今後も安定した需要を見込める可能性があります。
開業医の収入構造の基本(医業収入・経費・手取り)
開業医の実質的な収入(手取り)は、単純な医業収益ではなく、そこからさまざまな経費を差し引いた後の金額です。厚生労働省の「令和5年医療経済実態調査」より、個人診療所を例に医業収入から手取り額の変化をまとめたものが下表です。
項目 | 金額および税率 |
---|---|
年間医業収入 | 9,698万円 |
医業・介護費用 | 6,532万円 |
医業利益 | 3,166万円 |
所得税率 | 40% |
手取り額 | 1899.6万円 |
開業初期は医療機器の購入や内装工事などの初期投資の返済もあるため、開業から数年間は平均よりも手取りが少なくなることも考慮すべきです。
勤務医と開業医の年収比較 - データで見る現実
ここでは、客観的なデータをもとに勤務医と開業医の収入を比較してみましょう。「第24回医療経済実態調査」(令和4年度)のデータによると、勤務医(一般病院医師)の平均年収は、1,461万円です。これに対して、診療所院長の平均年収は有床診療所で3,438万円、無床診療所で2,578万円です。
額面だけを比較すると開業医のほうが高収入に見えますが、単純比較はできません。開業医の場合、初期投資の返済や人件費をはじめとする日々の運営費用を考慮する必要があります。
また、収入の安定性という面でも大きな違いがあります。勤務医の場合、基本的に毎月安定した給与が保証されています。一方、開業医は患者数の変動によって収入が左右されるため、新規開業時や競合の出現時、感染症の流行状況などによって、月々の収入に変動が生じることも珍しくありません。
このように単純な年収比較だけでなく、開業コストや収入の安定性、労働時間、将来性、福利厚生なども含めて総合的に判断することが、開業を検討するうえでは重要です。
「儲からない開業医」の共通点と失敗パターン
医院経営がうまくいかない開業医には、いくつかの共通した特徴や失敗パターンが見られます。これらを事前に理解することで、同じ轍を踏まないための参考にできるでしょう。
明確な運営方針・ビジョンの欠如
儲からない開業医の多くは、明確な運営方針やビジョンを持たないまま開業に踏み切っています。「開業医になりたい」「独立したい」という漠然とした動機だけで開業し、「どのような医療を提供したいのか」「どのような患者層をターゲットにするのか」という具体的なビジョンがないケースです。
たとえば、勤務医時代の不満から逃れるために開業したものの、自分がどのような診療スタイルを構築したいのか、地域にどのような価値を提供したいのかという視点が欠如していると、他院との競争に埋もれてしまいます。
地域ニーズを無視した立地選定
立地選定は開業医の収益を左右する重要な要素ですが、地域のニーズを十分に調査せずに決定してしまうケースが少なくありません。
たとえば、高齢者が多い地域に小児科を開業したり、すでに同じ診療科の医院が乱立している地域に参入したりすると、経営の安定に必要な患者数を確保できない可能性が高まります。
また、通勤・通学の動線や駐車場の有無、公共交通機関へのアクセスなども重要です。利便性の低い場所に開業すると、たとえ医療の質が高くても患者さんは思うように集まらないでしょう。とくに高齢者や子育て世代は、アクセスの良さを重視して医療機関を選ぶ傾向にあります。
過剰投資と資金管理の失敗
開業時、必要以上に高額な設備投資を行うことも、経営難に陥る典型的なパターンです。「立派な医院を作りたい」「最新設備を導入したい」という思いから、収益見込み以上の投資をしてしまい、その後の返済負担に苦しむケースが少なくありません。
過剰投資の例としては、月に数回しか使用しない高額医療機器の導入や、必要以上に広い診察室や待合室の確保、高級感を追求した内装などが挙げられます。これらは初期投資額を膨らませるだけでなく、維持費や減価償却費などの固定費増加にもつながります。
また、資金繰りの見通しが甘く、運転資金の確保が不十分なまま開業するケースも見られます。開業後すぐに黒字化するとは限らず、軌道に乗るまでの数か月から1年程度は赤字が続くことも珍しくありません。
スタッフとの連携不足と人材活用ミス
医院経営は院長先生一人で行うものではなく、看護師や医療事務など多くの人材によって支えられています。しかし、勤務医時代に人材管理の経験が豊富な医師は少なく、スタッフ管理や人材育成を疎かにしているケースが見られます。
たとえば、スタッフの意見や患者さんからのフィードバックを軽視し、院長先生が独断で経営判断を進めると、実態とかけ離れた施策になりかねません。また、スタッフの研修やセミナー参加などの成長機会を十分に提供できず、離職につながるケースも少なくありません。
離職率が高い状況だと、採用・教育コストが経営を圧迫するだけでなく、患者さんからの信頼も損なう可能性があります。
患者満足度を高める戦略の不足
どれだけ医療の質が高くても、患者満足度が低ければリピート率は下がり、口コミによる新規患者さんの獲得も難しくなります。儲からない医院は、患者さん視点でのサービス向上や満足度を高めるための戦略が十分ではありません。
たとえば、待ち時間短縮に役立つ予約システムなどのシステム面や、教育が肝になるスタッフの接遇などのソフト面は、患者満足度に直結します。また、院内の清潔感やプライバシーへの配慮なども、患者さんがかかりつけになるかのポイントです。
とくに現代では、誰でもインターネットやSNSを通じて医療情報を容易に入手でき、複数の医院を比較検討する傾向にあります。Googleの口コミや医療機関検索サイトの評価が低いと、新規患者さんの足は遠のいてしまうでしょう。
成功している開業医に見られる共通点
成功している開業医は、単に医療技術や人柄がよいだけでなく、医院経営を右肩上がりにさせるための戦略を行動に移しています。ここでは、とくに気にかけておきたい3つポイントを紹介します。
なお、以下の無料セミナーでも、医院経営とコンサルティングを両立している先生から開業を成功させるためのヒントを解説しています。ぜひ、あわせてご覧ください。
セミナーはこちらから:開業立地の選定が成功の鍵-失敗・成功事例から学ぶ-
立地選定の重要性を理解している
成功している開業医の多くは、開業場所の選定を最重要視しています。具体的には「需要が多く供給は少ない」「競合が弱い」「認知度が高い」という3つの条件を満たす場所を分析に基づき、慎重に選定しているケースがほとんどです。
たとえば、人通りの多い駅前や大型商業施設近くなどの好立地は家賃が高い傾向にありますが、結果的に広告費の削減や自然な集患につながると捉えています。逆に都心部で坪単価1万円以下のような安すぎる物件は、人目につきにくく集患が難しいため避けるのが無難です。
集患対策を行動に移している
患者数は医院経営の生命線です。成功している開業医は、漠然と「患者さんが来るのを待つ」のではなく、具体的な集患戦略を積極的に行動に移しています。
とくに注目すべきは、オフラインとオンラインの両方のチャネルを効果的に活用している点です。
まず、立地の良さを最大限に活かした「通りがかり」の患者さんへの訴求を重視しています。視認性の高い看板やわかりやすい医院名、診療科目の明示など、通行人の目を引き、足を止めてもらうための工夫を凝らしています。とくに高齢者が多い地域や、インターネット検索への依存度が低い診療科において効果的です。
同時にウェブサイトの整備やネット広告、地域名を含めたSEO施策など、オンラインでの集患対策も積極的に取り組んでいます。とくに若年層や子育て世代は、医療機関選びにインターネットを活用する傾向が強いため、オンライン上での存在感を高めることが重要です。
集患施策については、以下の記事でも解説しているため、ぜひあわせてご覧ください。
専門性・複数科でニーズに対応している
現在の医療環境において、一般内科だけの開業は厳しくなっているという認識を持ち、それに対応するための差別化戦略を持っています。
具体的には、専門性を深める方向性(例:消化器内科+内視鏡検査、呼吸器内科+CT検査など)か、複数科目を標榜する方向性で差別化を図っています。専門性の高い医療を求める患者層や、かかりつけ医からの紹介患者さんの獲得に効果的です。
たとえば、内科・小児科・皮膚科を標榜し、皮膚科を集患の入り口として機能させ、内科・小児科受診につなげるケースが挙げられます。
一方で、糖尿病など特定の専門分野に特化しすぎると、たとえ勤務医時代に診療していた患者さんでも思うように足を運んでもらえず、苦戦するリスクもあります。
地域のニーズや競合の状況を十分に調査したうえで、適切な診療体制を組んでいく必要があるでしょう。
まとめ:あなたは開業医を目指すべきなのか?
各データや事例からお伝えできるのは「開業医は儲からない」という単純な結論ではなく「条件次第で大きく収益が変わる」という現実です。
開業は大きな決断ですが、適切な準備と戦略があれば医師としてのやりがいと経済的な成功の両立は十分可能でしょう。重要なのは、自分自身のビジョンと地域のニーズに合った開業プランの構築です。
これから具体的に話を進めるにあたり、迷うことがあれば「これからのクリニック開業戦略」をご活用ください。経営・運営に必要な5つの対策をまとめているため、やるべきことがクリアになります。
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