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健康経営とは
健康経営とは、企業が従業員の健康を経営の重要な要素として位置づけ、戦略的に健康増進施策を推進する取り組みです。福利厚生の一環にとどまらず、従業員の健康へ積極的に投資することで、生産性向上や組織活性化を目指し、企業全体の業績向上や持続的成長を実現することを目的としています。
健康経営の具体的な取り組みには、労働環境の改善、適切な労働時間管理、メンタルヘルス対策、疾病予防プログラムの導入などがあります。
健康経営が注目されている背景
日本で健康経営が注目される背景には、少子高齢化による労働人口の減少と社会保障負担の増加があります。経済産業省の「健康経営の推進について」によれば、2050年には2020年と比べて生産年齢人口が30%以上減少し、全人口の約40%が高齢者になると予測されています。そのうち約10%が要介護者になるとされており、経済維持の困難さが懸念されています。
さらに、平均寿命の延伸に伴い医療や介護のニーズが増加する一方で、健康を維持できないまま長生きすることが社会全体の医療・介護費負担を増大させるとの懸念があります。
そこで、健康な状態で長期間経済活動に参加できる「健康寿命の延伸」が重要視されています。企業が健康経営を推進することで、医療費抑制や労働生産性向上に加え、企業全体の生産性やエンゲージメント向上も期待されています。
健康経営に取り組むメリット
健康経営に取り組むことには、下記のメリットがあります。
- 従業員の健康向上
- 生産性の向上
- 定着率・採用へ好影響
- 認知度向上
- 補助金・優遇制度の活用
それぞれ詳しく見ていきましょう。
従業員の健康向上
経済産業省の「健康経営の推進について」によると、2022年の調査では、健康経営の上位の認定を受けている企業ほどワークエンゲージメント*が高い傾向にあることが判明しました。
また、ストレスチェックを受けた従業員を対象にした調査では、健康経営を推進する企業は高ストレス者の割合が有意に低いことも確認されています。
さらに、2016年に東京大学等が土木建築業の大企業23社を対象に健康経営の取り組みと健康診断データを分析した結果、高スコア群企業は低スコア群企業と比較して、以下の6項目でいずれも低い数値を示しました。
- 年間医療費
- メタボ該当率
- 喫煙リスク者率
- 空腹時血糖値リスク者率
- 脂質異常症リスク者率
- 血圧リスク者率
*ワークエンゲージメント:仕事に関連するポジティブで充実した心理状態
このように、健康経営の導入は従業員のワークエンゲージメント向上と心身の健康改善に寄与します。
生産性の向上
経済産業省が2021年2月12日~16日に上場企業勤務10,000人(うち健康経営度調査回答企業勤務:6,785人、それ以外:3,215人)を対象に行った調査では、所属企業の健康投資レベルが高いと感じている従業員ほど、健康状態や仕事のパフォーマンスが良好であることが確認されました。
この結果は、健康経営が単なる福利厚生ではなく、従業員のパフォーマンス向上と企業競争力強化につながる重要な経営施策であることを示しています。
定着率・採用へ好影響
健康経営を推進することで、職場環境が整備され、従業員がより快適に働けるようになります。その結果、仕事のパフォーマンスが向上し、企業の成長につながります。さらに、従業員の健康が守られることで長期的な雇用が維持され、離職率の低下や定着率の向上にも寄与します。
また、健康経営優良法人の認定を受けた企業は社会的信頼を得やすく、求職者にとって魅力的な存在となります。これにより優秀な人材が集まりやすくなり、採用活動にも良い影響をもたらします。
認知度向上
健康経営を推進することで、企業の認知度や社会的信頼が高まり、ブランド価値の強化につながります。とくに、「健康経営優良法人」の認定を受けると専用ロゴマークが使用可能になり、健康経営への取り組みを視覚的にアピールできます。
さらに、経済産業省のウェブサイトに認定企業として掲載されることで、公的機関から評価された企業として認知度が向上し、メディア露出の機会が期待できます。これによりブランド力が強化されるだけでなく、「社会的責任を果たす企業」という印象が定着し、長期的な企業価値の向上につながります。
補助金・優遇制度の活用
健康経営優良法人に認定されると、中小企業は補助金申請時に加点評価を受けたり、融資で優遇利率が適用されたりします。
たとえば、「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」では、革新的な新製品やサービス開発に伴う設備・システム投資に対して最大2,500万円の補助が行われます。健康経営優良法人の認定を受けた企業は、補助金申請時に加点評価の優遇措置が受けられます。
また、「働き方改革推進支援資金」では長期運転資金や設備資金の融資が行われ、認定企業には特別利率が適用されます。このような制度を活用することで、企業は財務面での負担軽減や成長支援を受けられます。
健康経営への取り組み方法
健康経営の取り組み方法は下記のとおりです。
- ワーク・ライフ・バランスの推進
- 病気の治療と仕事の両立支援
- メンタルヘルス対策
- 長時間労働の防止
- 受動喫煙対策と禁煙支援
- 健康診断の受診率向上
それぞれ詳しく見ていきましょう。
ワーク・ライフ・バランスの推進
従業員が仕事と私生活の調和を保ちながら健康的に働ける環境を整えることで、生産性向上や組織の活性化が期待できます。具体的には、長時間労働の抑制や有給休暇の取得促進に加え、テレワークやフレックスタイム制度の導入などがあります。
さらに、勤怠管理を強化して労働時間を適正に把握し、過重労働を防止することも重要です。また、管理職の評価基準に残業削減を加えることで、企業全体の意識向上を図ることができます。
病気の治療と仕事の両立支援
従業員の高齢化に伴い、慢性疾患を抱えながら働く人の増加が見込まれる中、病気治療と仕事を両立できる環境整備が求められています。そのためには、勤務時間の柔軟化や短時間勤務制度を導入し、通院や治療がしやすい体制を整えることが必要です。また、有給休暇を時間単位で取得できる制度や病気休暇を設けることで、治療を続けながら働ける環境が実現します。
さらに、産業医との連携による健康相談や復職支援を行うことで、従業員が安心して働き続けられる職場づくりが可能です。加えて、団体保険制度による治療費補助も有効な支援策の一つです。
メンタルヘルス対策
従業員のメンタルヘルス維持・向上には、ストレスチェックの実施や相談窓口設置など、組織的なサポート体制の整備が必要です。労働安全衛生法改正により2015年からストレスチェック制度が導入され、従業員50人以上の企業では実施が義務付けられています。
ストレスチェックだけでなく、管理職向け研修を行うことで、上司が部下のストレスサインに気付き、適切なフォローを行える環境が整えられます。また、外部機関と連携してストレスチェック結果を集団分析し、課題が可視化されることで、より効果的なメンタルヘルス対策が可能になります。
関連記事:ストレスチェックは会社の義務!対象者や実施の流れを解説
長時間労働の防止
長時間労働を防ぐには、業務の適正な配分と勤務時間の管理を徹底することが重要です。まず、勤怠管理を強化し、自社の労働時間の実態を正確に把握することから始めましょう。長時間労働が常態化している部署や業務を特定し、業務の分担や効率化を進めることで負担の偏りを減らすことができます。
また、ノー残業デーの導入や定時退社の推奨など、企業文化として長時間労働を是としない意識を醸成することも大切です。
受動喫煙対策と禁煙支援
2020年4月1日に改正された健康増進法により、屋内での喫煙が原則禁止となり、企業には受動喫煙防止対策が求められています。従業員の健康を守るためには、職場での禁煙徹底や適切な喫煙スペースの設置が必要です。
また、禁煙外来治療費の補助や成功者へのインセンティブ制度などを導入することで、従業員の健康維持や医療費削減が期待できます。
さらに、社内イベントや健康セミナーを活用して喫煙リスクを周知し、喫煙率低下を促すことも有効です。
健康診断の受診率向上
健康経営優良法人認定要件には「従業員の健康診断実施(受診率実質100%)」があります。受診率向上には未受診者への個別通知や職場での一斉検診が効果的です。また、受診時間を就業時間とみなすことで従業員が気兼ねなく受診できる環境を整えることも重要です。さらに、社内での受診環境整備やオンライン健康指導を導入することで受診率向上と健康管理定着につながります。
関連記事:健康診断は会社の義務!目的や内容・罰則について解説
まとめ
健康経営は、従業員の健康管理を経営戦略に組み込むことで、企業の生産性向上や離職率低下、社会的信頼の獲得につながる重要な取り組みです。ワーク・ライフ・バランスの推進やメンタルヘルス対策、健康診断の受診促進などを実践することで、従業員の健康意識を高め、企業価値を向上させることが可能です。
健康経営を推進するには、従業員の健康管理だけでなく、関連業務の効率化も欠かせません。健康診断の運用設計から申し込み、結果の回収までを一括代行するサービスを活用すれば、企業の健康診断に関する業務負担を軽減できます。
さらに、一人ひとりの健康状態に応じた情報をオーダーメイドで提供するサービスを導入することで、従業員の健康意識を向上させることが可能です。
健康経営の推進には、従業員の健康意識向上と健康診断の効率的な運用が不可欠です。その両面を支援するのが、「Wemex 健診レポート」と「Wemex 健診代行」です。
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