目次
産業医面談とは
産業医面談とは、従業員の健康を守るために企業が実施する産業医との個別面談のことです。産業医は、労働安全衛生法により常時50人以上の従業員がいる事業所で選任が義務付けられており、従業員の健康管理や職場環境の改善を担っています。
面談は、健康診断やストレスチェックの結果を受けて実施されるほか、休職や復職の判断が必要な場合にも行われます。
近年はオンライン面談も普及し、遠隔地や休職中の従業員でも利用しやすくなっています。また、面談内容には守秘義務があり、プライバシーを厳重に保護することで、安心して相談できる環境づくりが求められます。
産業医面談の対象者
産業医面談の対象となるのは、心身に負担や不安を抱える従業員です。中には法令で実施が義務付けられているケースもありますが、法令で義務付けられていない場合でも、企業の安全配慮義務や従業員の健康保持の観点から、産業医面談が行われています。
区分 | 義務の有無 | 対象となる従業員 |
---|---|---|
長時間労働 | 有 | 月80時間超の時間外・休日労働を行った従業員 |
ストレスチェック | 有 | ストレスチェックで高ストレスと判定され、面接指導を申し出た従業員 |
定期健康診断 | 有※ | 定期健康診断の結果、異常所見が見られた従業員 |
休職・復職者 | 無 | 休職・復職を希望する従業員 |
メンタルヘルス不調者 | 無 | メンタルヘルス不調で面談を希望する従業員 |
※労働安全衛生規則第14条第1項第1号により、事業者は従業員の健康保持のために適切な措置を講じる義務があり、その措置の一つとして産業医面談による面接指導が挙げられます。
産業医面談で話す内容
上述の通り、産業医面談は心身に負担や不安を抱える従業員を対象に、法令で義務付けられている場合と、企業の安全配慮義務や健康確保の観点から実施される場合があります。
そのため、産業医面談には以下のような種類があり、それぞれの状況に応じて実施されています。
- 長時間労働の従業員との面談
- ストレスチェック後の面談
- 定期健康診断後の面談
- 休職・復職者との面談
- メンタルヘルス不調者との面談
ここでは、面談の種類ごとに話す内容を詳しく解説します。
長時間労働の従業員との面談
時間外労働・休日労働が月80時間を超え、かつ疲労の蓄積が見られる従業員は、産業医面談の対象となります。この場合、従業員本人から申し出があった場合には、企業は速やかに産業医面談を実施する義務があります。
また、新技術や新商品の研究開発業務の従事者や高度プロフェッショナル制度の適用者については、時間外労働・休日労働が月100時間を超えた場合、本人の申し出がなくても企業が産業医面談を実施することが法律で義務付けられています。詳細は下記の通りです。
区分 | 義務の有無 | 対象者 |
---|---|---|
研究開発業務従事者 | 義務(罰則付き) | 月100時間超の時間外・休日労働を行った者 |
義務 | 月80時間超の時間外・休日労働を行い、疲労蓄積があり面接指導を申し出た者 | |
努力義務 | 事業者が自主的に定めた基準に該当する者 | |
高度プロフェッショナル制度適用者 | 義務(罰則付き) | 1週間当たり月の健康管理時間が40時間を超えた時間について、月100時間超となった者 |
努力義務 | 上記の対象者以外で面接を申し出た者 |
※「長時間労働者への医師による面接指導実施マニュアル」(厚生労働省)(https://www.mhlw.go.jp/content/000843223.pdf)を加工して作成
面談では、過重労働による健康への影響を確認し、業務改善や労働時間の管理方法について助言が行われます。また、健康障害を未然に防ぐための指導も実施されます。
ストレスチェック後の面談
常時50人以上の従業員がいる事業所では、年1回のストレスチェック実施が義務付けられています。その結果「高ストレス者」と判定され、本人が希望した場合に産業医面談が行われます。
面談では、ストレスの原因や心身への影響を確認し、必要に応じてセルフケアやストレス対処法の指導を行います。症状が重い場合は、専門医療機関への受診を勧めることもあります。
関連記事:ストレスチェックは会社の義務!対象者や実施の流れを解説
定期健康診断後の面談
労働安全衛生法に基づき実施される定期健康診断で健康上の所見があった場合、産業医面談が行われます。面談の目的は、健康診断結果の詳しい説明と従業員の健康状態の把握です。生活習慣の改善指導や、必要に応じて医療機関の受診を促すこともあります。
関連記事:健康診断は会社の義務!目的や内容・罰則について解説
休職・復職者との面談
休職前や復職時には、産業医との面談を行うことが望まれます。面談では、休職の必要性や期間を確認し、休職中の健康管理や生活指導を行います。復職時には、職場への適応や働き方のアドバイス、復帰の可否判断、企業への意見書提出も行います。
さらに、再発防止のためのセルフケア指導や、復職後の就業配慮事項の検討も行い、円滑な職場復帰を支援します。
メンタルヘルス不調者との面談
メンタルヘルス不調を感じている従業員が希望した場合、産業医面談を受けることができます。企業には実施義務はありませんが、従業員の心身の健康を守る観点から、相談の機会を設けることが望ましいとされています。
面談では、体調不良の背景や職場でのストレス要因を丁寧に聞き取り、必要に応じてセルフケアの方法やストレス対処法についてアドバイスを行います。また、症状の程度や治療歴に応じて、適切な支援機関の紹介や、今後の働き方についての助言を行い、従業員が安心して働けるようサポートします。
関連記事:メンタルヘルスケアの基礎知識|4つのケアと3つの予防策
産業医面談を行うメリット
産業医面談を行うことで得られる主なメリットは以下のとおりです。
- 高ストレス者への早期ケアでメンタル不調を予防
- 職場改善のきっかけになる対話の場になる
- 面談による早期介入で休職・退職を防ぐ
それぞれのメリットについて詳しく解説します。
高ストレス者への早期ケアでメンタル不調を予防
ストレスチェックで「高ストレス」と判定された従業員には、本人の申し出があれば、産業医との面談を通じて個別対応が可能です。面談では、従業員の状態を丁寧に把握し、メンタルヘルス不調の早期発見・対応につなげることができます。
心身の負担が深刻化する前に適切な支援を行うことで、従業員の健康維持にもつながります。また、過重労働や職場ハラスメントの兆候を把握する機会にもなり、職場環境全体の見直しにも役立ちます。
職場改善のきっかけになる対話の場になる
産業医面談は、従業員が率直な意見を話しやすい貴重な機会です。業務負荷の偏りや職場の人間関係など、普段は上司に言いづらい悩みも安心して相談できる環境が整っており、問題の発見につながります。
その結果、業務フローや労働時間の見直しなど、具体的な改善策を立てやすくなります。さらに、職場環境が改善されることで従業員の満足度やエンゲージメントが高まり、定着率の向上にもつながります。
面談による早期介入で休職・退職を防ぐ
産業医面談をおこなうことで、従業員の不調を早期に把握し、休職や退職を防ぐ対応がとれます。また、職場の問題点が見つかれば、早期に改善につなげることも可能です。
また、面談によって退職を考える理由を把握し、職場環境の見直しや人材流出の防止にも役立ちます。
従業員が産業医面談を拒否する理由
産業医面談は従業員の健康を守るための制度ですが、面談を拒否するケースも少なくありません。その背景には大きく3つの理由があります。
1つ目は、面談の目的やメリットに対する理解不足です。従業員が「なぜ面談を受ける必要があるのか」「面談を受けることで何が変わるのか」を十分に理解できていない場合、制度に対して不信感や抵抗感を持ちやすくなります。
2つ目は、面談のための時間を確保しにくいという実務的な問題です。特に多忙な職場では、業務を中断して面談の時間を取ることに心理的な負担を感じる人も多く、その結果、面談が後回しにされたり断られたりすることがあります。
3つ目は、面談で話した内容が職場に知られてしまうのではないかという不安も理由のひとつです。特にメンタルヘルスに関する相談の場合、プライバシーへの配慮が重要となるため、守秘義務が徹底されていないと感じると、面談をためらうことがあります。
産業医面談を実施する上での注意点
従業員が産業医面談を拒否する理由をふまえて、産業医面談を実施する際は、以下の注意点を押さえておきましょう。
- 面談の意義を丁寧に伝えることが出発点
- 従業員の都合や心情に寄り添った対応をする
- 産業医の意見を活かして職場環境を見直す
それぞれについて詳しく解説します。
面談の意義を丁寧に伝えることが出発点
産業医面談を円滑に進めるためには、まず面談の目的や意義を従業員にしっかりと伝えることが大切です。従業員が面談の重要性を理解していないと、「時間の無駄」と感じたり、「自分には関係ない」と思ってしまうことがあります。
面談が実施されない場合、従業員の健康状態が悪化し、最悪の場合は休職や労災などの深刻な事態に発展するリスクもあります。
そのため、面談がどのように本人の健康維持や働きやすさの向上につながるのか、具体的なメリットを交えて丁寧に説明することが重要です。
従業員の都合や心情に寄り添った対応をする
面談を実施する際は、従業員の都合や心情に配慮した柔軟な対応が大切です。面談日時を一方的に決めるのではなく、従業員と相談しながら調整することで、心理的な負担を軽減できます。
また、健康診断結果などの個人情報の取り扱いには十分注意し、封筒で手渡す・郵送するなどの配慮も有効です。
さらに、プライバシーが守られる個室やオンライン面談を活用し、安心して話せる環境を整えることで、従業員の本音を引き出しやすくなります。
産業医の意見を活かして職場環境を見直す
面談で得られた情報や産業医の意見は、個人の健康管理だけでなく、職場全体の課題を改善するために役立つ重要なヒントとなります。
たとえば、業務過多や人間関係のストレスが明らかになった場合は、業務分担の見直しや調整といった対応策を検討します。
まとめ
産業医面談は、従業員の健康を守るだけでなく、職場環境の改善や企業全体の生産性向上にもつながる重要な取り組みです。面談を通じて不調の早期発見と対策を行うことで、休職や離職の防止、職場の信頼関係の構築にも役立ちます。
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